レコードプレスには、まず音源となるデータが必要です。オーディオデータを入稿して、期待を膨らましてテストプレスを届くのを待つ。初めて針を落とすまで緊張感とワクワクする気持ちは何物にも変えがたい瞬間です。そんなとき、「あれ?思ったよりも音がよくない。。」こういった体験もすることがあるでしょう。

 

今回は、できるだけ最良の結果を得るためにマスターデータをどうすべきかヒントとなるポイントを紹介致します。*データファイルでの入稿として

 

まずはじめに認識して欲しい点として、あなたが作成したマスターデータが黒い円盤になる前に数々の過程を考えなければいけません。

CDやデジタル配信音源はマスタリングの音質が最終的な作品になるのに対して、レコードはマスタリングした音質が最終ではなく、その後のプレス工程でも音圧や音質が変化するという事になります。よって、CDやデジタル配信とは違うマスター(仕上げ)になるべきです。元音源はどんな工程で作られているか、どのようなトラック数でどのくらいエフェクターを使いミックスを仕上げているか、リミッターをどれほど挿しているか、マスタリングはどのような処理で行われているか、音源の長さと作ろうとしているレコードフォーマットが許容に収まっているか。。などなど。

 

現在ウルフパックジャパンでは、以下のようなプロセスを経てプレスまで行なっております。

 

オーディオデータ入稿

簡易オーディオデータチェック 

テストプレス / カッティング発注 *テストプレスなしの場合はカッティング後そのまま完成品へと進行致します。

テストプレス完成 / 納品 *約2週間の期間

カスタマー確認 = ここで承認もしくは拒否の場合オーディオデータ再提出となります。

承認後、プレス工程開始

 

レコードフォーマットと収録時間の関係は以前アップした記事 (こちら)で紹介しているのでここでは省きます。ただし、この部分が最も基本的なところなので確実に認識してください。

 

下記はデータ音源を作成する際のポイントになります。

 

1.ラウドネスマキシマイザー、リミッター、コンプレッサーなど音圧をあげるようなエフェクターの過度の使用を避ける。

ここはアナログカッティングにおいてかなり重要なポイントともいえます。極端な話、これらのエフェクターは外してダイナミックレンジとヘッドルームを稼いだ方が良い結果になることが多いです。(その上でプリマスタリング時に針飛び/歪みとなる原因の帯域を処理する必要があります) これらはミックスの段階から言えることで、この時点で音圧をあげていくと特にラウドカット(*5)の場合、カッティング時ボリュームをあげていく作業の際、余計な成分も持ち上がりバランスが崩れます。特に高域やリバーブなどの空間系の成分が失われる可能性が高いです。

 

2.位相成分に注意する。

可能であれば、位相相関メーター(Phase Correlation Meter)を使用してマスターを確認してください。80-100 Hz以下は同相にする必要がでてきます。
左右に低音成分が広がっている場合は、歪み、針飛びの原因となり、完全逆位相の場合はカッティング出来ません。

 

3.再生中に起こり得る問題を回避するために、すべての聞こえない信号を除去する。

レコードのダイナミック・レンジはデジタルに比べても狭いです。周波数レンジも上は15kHzくらいまでで、これ以上収録されていてもノイズの原因になりカットされますので、マスターデータを作成する際はそれを踏まえてバランスを考える必要があります。

 

4.高域の処理について

7 kHz周辺であるボーカル (子音 さしすせそ)、4-5kHz周辺のハイハット、シンバル、タンバリンなど、シビラントや高周波の鋭い音には特に注意してください。この部分は歪みの原因になるセンシティブな部分です。したがってそれはミックスの段階で気をつける必要があります。
これらを施すことにより、他の高周波音(パーカッション、ギターなど)の変化を防ぐことにもなります。
また、超低域を入れすぎない(30Hz〜50Hz)ことも注意してください。カッティング溝の幅が増えマージンをあける必要がでてきます。

 

5.ラウドカットとフラットカットについて

弊社では、ラウドカットとフラットカットという2つのタイプのカッティング方法を行います。

 

・ラウドカット
弊社通常規格のカッティング方法です。こちらは、フラットカットよりボリュームを稼ぐことが可能で全体的に音圧を高く設定致します。

・フラットカット
音源の持つバランスを可能な限り正確にカッティングしていく方法です。こちらは、ボリュームは抑えめ (1db〜-2dbほどラウドカットよりゲインが低くなる。) になりますが、その名のとおりフラットな仕上がりをお求めの方におすすめです。-

7” 1/ 33RPMのフォーマットの場合、カッティング許容範囲の問題によりこちらが自動的に採用されます。

 

*ラウドカットの場合、カッティングコントロール時に音圧を許容範囲の限界まで上げていくため、元音源のヘッドルームやダイナミックレンジがないとあまり効果的ではありません。例えば、ミックス時にリミッター/コンプなどで作り上げ、マスタリング時にまたリミッターなどで調整したとして、その次の段階のカッティングコントロール時にできることが限られます。膨れ上がった上に余分な成分を削ぎ落としてピークタイムをできるだけ避けていく作業となり、あまりバランスがとれない結果となります。この場合、この段階で上げれるべきボリュームも上げれなくなります。

できる限り、余分な成分を浮き上がらせるリミッター/コンプなどのエフェクターを使わずにダイナミックレンジを開けて音源に”間”をとったほうが空間の広がりなどバランスが取れておすすめです。

 

6.レコードプレーヤーと針

テストプレス盤を確認する際、所有のレコードプレイヤーと針以外の環境で試聴することをおすすめします。比較するレコードがある場合、そのレコードは同じ条件で作られているわけではないことを認識ください。そのことを理解した上で判断ください。

 

以上、レコードプレスの際に必要なオーディオファイル作成のポイントをざっとご紹介しました。

レコードでは、プレス行程で音質が低下したり、再生するとき完全にトレースすることがむずしかったりと、完璧な音を再現するのは非常に困難です。ただ、人々がレコードを好きなのはそういった完璧に再生するのがむずかしいということも含めて、デジタルよりもソフトで温かい音がして過度にシャープでない、だから聴いていて心地いいということが理由としてあると思います。

もちろん、楽曲によって性格は変わるのでその都度処理しないといけないことがありますが、主に起こりうる可能性として上記を踏まえて音源作成してみてください。

また、弊社では専門エンジニアよるプリマスタリングも行なっております。わからないことがあればプロにお任せください。

 

About the Author

Ichitaro Ohara

ウルフパックジャパン・マネージャー。1980年生まれ。レコードにまつわる業務に長く関わってきた経験をもって、スムースなサービスができるよう心がけます。